ゲーテの詩によるクラシックの声楽曲に「野バラ」というものがあり、シューベルトをはじめウェルナー、シューマンなど多くの音楽家が異なるメロディーの曲を作っています。特にシューベルト作曲のものは有名です。「野バラ」という単語を聞くと反射的にメロディーが浮かんで来る人もいることでしょう。
この曲に出てくる野バラとは、いったいどんな花をつける植物なのでしょうか?私達が鉢や庭で栽培しているバラとどんなところが似ていて、どんなところが違うのでしょうか?
ここでは野バラについて紹介するとともに、野バラとバラの関係についても説明することにします。
野ばらとバラの違い
野バラとは野生のバラのことです。日本ではノイバラ、ヨーロッパではイヌバラが代表的な品種です。園芸用・鑑賞用に栽培されている八重咲きのバラとは異なり、ノイバラもイヌバラも一重咲きの素朴な花をつけます。
ノイバラはバラ科の落葉性のつる性低木で、日本列島(ただし沖縄を除く)や朝鮮半島の山野にふつうに生えています。高さは2mほどで、枝には長楕円形の小さな葉が生えており、園芸種のバラと同じようにとげがあり、毎年5月から6月になると、枝先に直径2cmくらいの白い花を咲かせます。花は一重で花びらの枚数は5枚、良い香りがします。秋になると赤い実が熟します。
これに対してイヌバラは、ヨーロッパや西アジアに自生している常緑低木です。白かピンクの直径5cmほどの花をつけ、花びらは日本のノイバラと同じ5枚。秋に赤みがかったオレンジ色の直径2cmくらいの実をつけます。この実はローズヒップと呼ばれ、ジャムやお菓子の材料に使われたり、ハーブティーとして使われたりします。
シューベルトなどの作曲家が曲をつけた、有名なゲーテの詩に出てくる「野バラ」は、このイヌバラだと考えられています。
一方、私達のよく知っているバラは、バラ科バラ属に属する植物の総称であると共に、特に鑑賞用などに用いられる園芸種のバラのことを示します。
バラには美しい花と素晴らしい香りがあるために、大昔から園芸用や香りを楽しむために栽培が続けられてきました。その過程で品種改良によってさまざまな種類の園芸種が生み出され、今日では世界中に4万種以上のバラが存在しています。
バラといわれる植物は、 灌木、低木、または木本性のつる植物で、葉や茎に棘を持つものが大半です。バラの原種は北半球の温帯域に広く自生していて、野バラ(つまりノイバラやイヌバラなど)も原種のひとつです。
野ばらとバラの関係についてもうひとつ。日本においては、園芸用のバラの苗木を作るために接ぎ木を行うとき、台木として野バラ(ノイバラ)を使います。
まとめ
野バラとバラは同じバラ科バラ属に属していて、互いに親戚関係にある植物です。
野バラはバラの原種のひとつに相当します。
野バラとバラとは互いに無関係ではありません。野バラがないと、園芸用のバラも生み出すことができないのです。